2013年7月6日(土)~9月29日(日) ※同時開催

ミスター・ウエット・イリエ

 戦後から約半世紀にわたって奈良大和路の風物を撮り続けた入江泰吉は、大和路の美を追求し、被写体の奥に秘められた精神的な美をとらえようとしました。なかでも、風景作品は「入江調」や「入江節」と称され、大和路特有のおちついた色調と情感豊かな表現によって写しだされています。
 入江は大和路の美は「気配」と「陰影」の中にある、と考えていました。しかし、いかにして眼には見えないものを写真に写すか、試行錯誤を重ねるうちに行きついたところは、自然の中の潤いある空気感をとらえることでした。特に、雨上りや霧、靄などでしっとりと濡れた大和路の風景には歴史の気配を感じ、 霜や雪で真白く広がる光景には大和路の陰影の美が秘められています。入江は、こういった自然条件を好んで作品にとり入れ被写体に合う最も良い条件を選んで撮影し、大和路を叙情的に表現しました。そうして形成された入江の作風から、 親友である画家の杉本健吉は敬意を込めて「ミスター・ウェット・イリエ」と呼んだのです。
 今回は、入江のしっとりとした風景作品から、大和路の「美」に迫ります。入江の空気感がただよう奥行きのある作品で、人と自然がつくりあげた大和路特有の歴史ある風景を紹介します。
2013年7月6日(土)~9月29日(日) ※同時開催

入江泰吉の文楽

 昭和20(1945)年3月14日未明、大阪大空襲によって街は火の海と化してゆきます。大阪鰻谷で写真店を開業していた入江泰吉の店舗兼自宅もこの時に焼失。空襲警報が鳴り響き、真っ暗な中で光枝夫人がわからないままに持ち出したものが「文楽」のフィルムでした。
 入江は昭和14(1939)年から自宅近くの四ツ橋文楽座に通い、文楽の撮影を始めます。作品を次々に発表し世界移動写真展や日本写真美術展で受賞、初の個展「文楽人形写真展」を開くなど、写真家としての道を切り開きました。
 当時の文楽は吉田文五郎や初代吉田栄三といった名手がそろう黄金期で華やかな舞台が連日、繰りひろげられていました。入江が特に心惹かれたものは「人形の首(かしら)」。舞台裏の電球の下で無表情に並べられた「首」が放つ独特の哀感に魅せられ多くの作品を生み出しましす。 また、人形たちに生命を吹き込む遣い手の楽屋での姿や舞台裏の人々の姿も撮影し、華やかな舞台の姿だけではなく人間の魅力にも引き込まれ撮影し続けます。
 戦前および戦後間もない数年間でしたが、写真家・入江泰吉にとって充実した日々であり、奇跡的に戦災を逃れた入江泰吉最初期の代表作「文楽」を紹介します。