2014年3月21日(金・祝)~6月29日(日)

入江泰吉 花と造形

 写真家・入江泰吉は奈良大和路の風景や仏像を生涯のテーマとして、それらが醸し出す叙情や精神性をさまざまな角度から追求した多くの作品を残しました。 しかし晩年は「万葉の花」シリーズの撮影にほとんどの時間を費やします。
 これらの作品群は奈良大和路の場合とは違って、万葉集にも登場する花そのものを見つめ、形や色に美を見いだしています。対象の美しさを客観的に表現することに 徹したのです。そのためしばしばクローズアップの手法がとられ、撮影の場は捨象されています。この点において風景や仏像をとらえた作品とは被写体に対する 意識がまったく異なり、作風の転換といってもよいでしょう。
 そのきっかけとなったのが、晩年の一時期に取り組んだ造形でした。もともと芸術的天分に恵まれた入江は「自然造形にこそ美の根源があり、そこから芸術が生まれ育ってきたのではないだろうか」 と考え、自然界から形というもののあり方を学ぼうとしました。木の根や川原石などに彩色を施したり、背景を作って演出したりして、自然の中の不思議な形を美しく“魅せる”方法を探ったのです。 この取り組みが結果として生きたのが花の撮影です。入江は「造形」によって養った眼を花に向け、小さな花そのものが持つ美を見いだし、写真で表現したのです。
 本展で紹介9する花や造形作品を、入江は「美の究極」「美の根源」と位置づけています。これらの作品群からは、逆に晩年の入江がたどりついた美の境地を垣間見ることができるのです。